上演作品 あらすじと解説 目次

・『鏡美人』

・『フレンズ(M1へいこう)』

・『泣きな』

・『真(チェンジ)』

・『マイフェアレディ』

・『ランコントル』

・『公金横領』

 

 

『鏡美人』おかもとひろき×残間統

<あらすじ>
 柳沢龍之介。この『ShortCuts』シリーズによく登場する、市民相談室すぐやる課に勤務している。彼の実家は和菓子屋であるが、跡を継ぐのが嫌で、今日、その最後の作品の和菓子を持って、友人の東一(ひがしはじめ)の家を訪れた。そこに東の実家から日本酒が届いている。彼の実家は造り酒屋であり、今は妹がまるで『夏子の酒』の主人公のように杜氏となって酒を造っているという。その妹が作った酒『鏡美人』を巡って二人は……

<プロダクションノート>
 映画の『男はつらいよ』の寅さんの間ってあるでしょ。
 あれができないかなって思ったんです。
 寅さんのモノマネをする人はいっぱいいるけど、あの雰囲気を再現する人はいないじゃないですか。ある種、落語的だし、語りだし、確信犯的な肩すかしだったり、坊主の説教に似ていたり……
 渥美さんの芸。
 でも、誰もそんなふうに見ない。
 寅さんがかならず当たっていた時代。
 監督の山田洋次さんが工事現場を通りかかった時、そこで働いている人達に「いつも見てるよ」と声を掛けられた、という話をどこかで書かれていた。
 あれは寅さんだから、と、敬遠しないで、真似して見るのはどうだろうか、と。
 もちろん、足下にもおよばないことは重々承知の上。
 それでも、やってみようじゃないか。
 と思って作り始めたものです。
 寅さんのあの感じ。
 渥美清さんが辿り着いた場所。
 以前、石田えりさんと飲んだ時に「なぜみんな寅さんありがとうと言うんだ。渥美さんありがとうだろう!」とおっしゃってましたが、私もそう思います。でも、そうおっしゃっている石田えりさんに「あの、それでなんで、えりさんは『釣りバカ』は降りたの」とはさすがに聞けませんでしたが。というわけで、寅さんの映画のワンシーンで寅さんが妹さくらを褒めてくれる奴に酒を注いでいくというのをやってみたかったんです。でも、あとでわかったのですが、これは落語の『子褒め』だったんですね。そう言われりゃそうだ。渥美さんの芝居の印象の方が強烈だったから……
やっぱり「渥美さんありがとね」ってことですかね。

 


『フレンズ(M1へいこう)』益子祐貴×二宮咲

 これも再演物ですね。
 これも二度とできないんじゃないかって思ってたんですよ。
 まず、この初演のあっちゃんはサンミュージックでお笑い部門に所属していました。
 所属というよりは預かりであったんです。
 で、彼女にどうして声をかけたかというと、その前に、女子プロレスラーを10年やった広田さくらさんの引退試合をたまたま見て、衝撃を受けたんですね。
 「引退したあとのことはなにも考えてません」と、引退興業の最後のマイクパフォーマンスで言っていたので、即電話しました。
 彼女とはそれからのつきあいです。で、その10年、女子プロで人前でパフォーマンスをしてきた彼女の瞬発力は恐ろしい物で、彼女に対抗できるのは私の知り合いの中では窪田あつことだけでした。さっそく彼女を呼んで台本渡して稽古を始めたのですが、タイトルの『M1へいこう』というのが、どうしても納得できない、『グランプリに行こう』と変えてくれないか、と言い出しました。彼女はお笑いをやっているので、舞台上で『M1』目指しているんです、というのがリアリティがない、というのです。そんなのどうでもいいし、誰もそんなこと気にしないじゃん、と思ったのですが、そこに彼女はこだわっていたので、初演のタイトルは『グランプリへ行こう』というタイトルでした。でも、考えてみれば、この話で『M1にいこう』というタイトルと『グランプリに行こう』というタイトルであるならば『M1に行こう』というのが、たとえリアリティがあったとしても、私はおもしろい思います。このあたりのつまらないこだわりとプライドが人の限界を作ってしまうのだなあ、と残念に思いました。で、今回は初心に戻って『M1に行こう』というタイトルでやろうとしたのですが、作っていくうちに『M1』なんかどうでもよくなってきました。それよりも、もっとこれは友情の話なのではないか、と思い至り、さらにタイトルを今回は『フレンズ』にしたというわけです。

プロダクションノート

 演技にはいろんなメソッドがあります。これはよく言うんですが、格闘技のルールに似ています。ボクシングも、ムエタイも、プロレスも、みんな格闘技ではありますが、それぞれルールが違います。
 ボクシングでは倒れた人を蹴ってはいけませんが、プロレスは普通に蹴ります。中国拳法をわざわざ中国まで習いに行っている方に聞いたのですが、中国拳法は組手がありません。必ず、殺すためのものなので、組手で練習という概念がないそうです。
 演劇もまた、様々な流派があります。格闘技が基本相手を倒すという大枠があります。それがどういうルールでどのように倒すのか? なにを持って倒したのか? を判定することが違うだけです。
 演劇もまた人前に出てなにかする、なにかしらをそれを御覧になっているお客さんに与える、ということとが大枠ではありますが、そのための手段は千差万別です。
 今回のこの『フレンズ』は、ところどころ漫才のメソッドが入ってきています。
 もちろん、演劇をずっとやってきた我々がおいそれと漫才ができるわけではありませんが、漫才をやろうとして頑張っているまだまだ、発展途上の漫才コンビの話ならできるのではないか、と思って作り始めたものです。
 漫才コンビの二人が出てきて、話す。
 二人に演出したのは、あたかも二人の前にマイクスタンドが立っていて、それに向かって話しているように演じて欲しい。ということでした。
 私達はそうやって話す漫才のフォーマットに慣れています。
 その二人が対峙して演劇的に話すのではなく、マイクに向かって喋っている姿が、おそらくお客さんの中で長い間見ていた、漫才師の佇まいであり、それは話されている内容よりもビジュアルから彼らの見てきた記憶にダイレクトに伝わるものではないか、と信じています。
 そして、基本はつかこうへいさんです。
 弱者がとつぜん、キレたり、また、強者が這いつくばってみたり、と関係制が瞬時に代わる、そのダイナミックさが、演劇の武器だと私は思うのです。
 また、これには、一つ元ネタがあります。
 東京壱組という劇団がありました。
 その中で、ドツキ漫才をやる二人が出てくるのですが、あまりにも長い間ドツキ漫才を繰り返していたために、ドツかれる方がボクシングでいうところのパンチドランカーのようになっていく話です。
 こう、聞いているだけで涙、涙の物語ではありませんか。
 それを、若い女の子達だけでやるとどうなるんだろう、しかも、つかさん風味で。
 最初に、それがうまくいくのかどうかわからないので、40分くらいの長い台本を書きました。
 この『フレンズ』も相当長いですが、実はこれは短縮版で、エッセンスが濃縮されたものなのです。
 そして、これがうまくできたので、この初演の二人のご褒美として、『泣きな』を書いたわけです。
 それについてはまたのちほど。

 


『泣きな』 益子祐貴×二宮咲

<あらすじ>

 漫才コンビのあつことさくら。

 うずくまり泣いているあつこ。

 それをなぐさめにくるさくら。

 「泣きな」と、優しく泣いているあつこの背を撫でてやるさくら。

 だが、彼女達は40分後に本番がある。その時になれば、お客さんの前に出て笑顔を見せ、そして、芸人として笑わせなければならない。

 その40分の間に、あつこは彼氏との思い出が詰まったスマホを海に捨てに行こうとする。

 そして、捨てに行く道中で、本番の舞台にかける新作の漫才を完成させようと四苦八苦する……

 若手、女漫才コンビ、あつことさくら。彼氏に振られてしまって、本番前に笑えない、あつこ。

 さくらがはげます「あと、40分で本番、海にその彼氏との思い出がつまったスマホを捨てに行こう!」

 だが、タクシーに飛び乗った彼女達の前に立ちふさがる羊の群れ「メエエエエエ!」

<プロダクションノート>

 今回の異なる演劇メソッド大会。このあつことさくらのもう一本の話は、つかこうへいさんの芝居のメソッドで進行するもので、作られた順番は『フレンズ』の方が先です。

 そして、では、同じキャラクター達の物語でなおかつ、メソッドが違う短編を作ることはできないものか? というところからの発想です。

 つかこうへいさんの芝居が激しく、熱いものであるならば、逆に普通の芝居、いわゆる静かな芝居と呼ばれているもので、彼女達のまた違った日常を描く、という方向に行きがちですが、それではあまりにも芸がありません。

 今回、稽古場でずっと言い続けたことは「あるキャラクターが登場して、第一声を発した瞬間に、その役者が表現する状態、また、その声のニュアンスで、ああ、これは自分が会ったことがあるこの人のあの状態、見た事のある風景…」と認識しようと頑張ってくれます。

 演劇の短編集を見た時に5本目、6本目になってくると段々この頑張りが疲れてきて、どうでもよくなってきたりします。


『真(チェンジ)』 久保田奈津希×双葉

<あらすじ>

 イメクラのチュッパチャプス。

  使っていないプレイルームの一つでメイド服を着たまま泣いているネオンちゃん。

 メイド服コースを頼んだ男性にチェンジを告げられ、プライドを傷つけられたネオンちゃん。

  そのネオンちゃんを慰めに来た、同じくチェンジを告げられたデイジーちゃん。

 彼女を元気づけるはずが……

<プロダクションノート>

 これはもう言っていいと思うんだけど(笑)『ShortCuts3』で初演されたものなんだけど、そもそも、新作を書くつもりはまったくなかったんです。

 が! 


『マイフェアレディ』 双葉×石井啓太

<プロダクションノート>

 この『ShortCuts』のシリーズでは、これまで私が書いた短編をただひたすら蔵出しするように再演していくプロジェクトだったんですが、前回の『ShortCuts3』でついつい新作を書いてしまったもんだから、もういいや、新作も書こう、思いついた物は端から形にして行こう、と、まるで水が高い所から低いところに流れるかのごとく、なるようになるさ、と、新作を書かない、という自分自身で勝手に決めていた公約を破棄したわけです。

 91年から書き始めた短編の一人芝居が37本、97年に二ヶ月半で書いた二人芝居の短編が51本、そして、2003年から始めた短編のシリーズが150本。

 書こうと思ったら、いつでもどんな状況でも書けてしまいますから、再演だけじゃなくて新作も書いちゃう、と公約を破棄した私ではありますが、どこかで、そこに制約を求めないと、これまたどこまでも書いてしまうことになってしまいます。

 『ShortCuts2』で出会った双葉ちゃん。なかなか、というか相当な逸材で本当に出会えて良かった、と思える女優さんでした。

 双葉ちゃんがやってくれた『その男、凶暴につき』という作品。相手役をやってくれた劇団たすいちの石井啓太君。

 新作を書いていい、ただし、数は限られている、という制約がある。だったら、この双葉ちゃんと石井君で書きたい、それも、『その男、凶暴につき』の二人の関係とはまったく違うものでやりたい、と。


 

『ランコントル』植野祐美×石井啓太

<あらすじ>

 男は超一流の調香師。香水を作るプロフェッショナル。

 ある日、その男の元にある女が訪ねてくる。

 彼女は一枚のシーツを取り出した。

 それは以前、彼が怪我をして入院していたベッドのシーツだった。

 そこに残っている彼の残り香について彼女は聞く「この香りはいったいなんなのか?」

 今、彼は自分で調香した香水を身にまとっているが、実は彼自身の体から、フェロモンが出ているのだった。

 そのフェロモンは女性をとりこにする強烈なものだった。

 彼はその自分の体から出るフェロモンのおかげで、数々の事件にこれまでも巻き込まれ、さんざんな目に遭ってきたのだった。

 とにかく、普通にそこにいるだけで彼の匂いを求めてよってくるのだ。

 自分からでるそのフェロモンの正体とはいったいなんなのか?

 彼はそれが知りたくて調香師の道を選んだ。

 だが、彼はその自らのフェロモンについてはひた隠しにしていたつもりだったが、その匂いをかぎつけた女が、彼の元へとやってきたのだった。

 そして言う「あなたの助手になりたい、そして、そのフェロモンの謎を解き明かしたい」と・・・

<プロダクションノート>

 なんとこの芝居、初演は「愛人にしたい女No.1」「国民の愛人」など独特のキャッチフレーズで知られる橋本マナミ。

 そう、今回、植野祐美は橋本マナミにじんのひろあきが宛てて書き下ろした戯曲に挑戦します!

 シーツにくるまって恍惚としている看護婦の女性。

  彼女が担当になった男は体からフェロモンが出る男だった。

  その男を香りを求めて、男の元を訪れるが……

  ××  ××  ××

 アンソロジーという言葉があって、特定のテーマにしたがって、複数の作家の短編を集めて本にするというのが一般的で、たまに一人の作家の作品をあるテーマによって集めて編纂したものをこう呼んだりします。

 今、私がやっているこの『ShortCuts』というシリーズも、いってみればこのアンソロジーで、特定のテーマはもちろん、題材のモチーフによるところが多いんですが、どの作品をというくくりだけではなく、どの作家とどの作家から選ぶかというのも編集者の腕の見せ所だったりします。

 アンソロジーを編む、という言い方をしたりするのはこのためですね。

 『ShortCuts』も、どの話をどう組み合わせるか、というところでも編む、という作業が必要ではあるが、ここでもう一つ、物語の組み合わせとは別に演劇のアンソロジーの場合、どの役者とどの役者をどう配するか、というもう一つのアンソロジーの思惑が存在する。


『その節は…』おかもとひろき×残間統

<あらすじ>

 そもそも、そんなに地盤の緩い土地というわけではなかった。事の起こりは地下鉄12号線の工事。地底を掘り進むことによって、地下水の流れが変わり、東の住むマンションの下に、市営プール並みの地下水が知らず知らずのうちに溜まっていたのだった。

 そうとは知らず、東の家に呼ばれていった、市民相談室すぐやる課の職員。

 三階建てのマンションが丸ごと水没することになろうとは。

<プロダクションノート>

 日常の芝居を現代口語文でお送りしている『ShortCuts』の中でも、異色中の異色作。

 水没したマンションからの大脱出劇。

 部屋の中に突っ込んで来る4WDの車、まるで手裏剣のように飛び交うCD、津波のように襲い来る地下水……

    ××  ××  ××

 市民相談室すぐやる課モノ。

 数ヶ月前、市民相談すぐやる課が依頼された「一方通行の標識が明後日向いているからなんとかして」

 出動してはみたものの……

 事態は想像を絶する展開へ。

 炸裂するパワーマイム(本当か!)


●『公金横領』 石川ひとみ×植野祐美

<あらすじ>

  とある会社のオフィスの昼休み。

  公金を横領して逮捕されてしまった同僚の女子の机の中の整理をまかされたOL二人。

  2400万を横領し、その全てを男に貢いだ女の引き出しの中から、吉野家の牛丼の割引券が出てくる、昨年秋、すでにかなりの金額を横領していた彼女と一緒に行った写真旅行の写真が出てくる、そして、輪ゴムの束。2400万あったら、どれだけ輪ゴムが買えるというのだ……

 いったい、2400万を貢がせた男はどんな男なのか?

 よっぽどエッチがうまかったとでもいうのか?